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介護の2025年問題に挑む社会起業家 鈴木亮平氏

介護の2025年問題に挑む社会起業家 鈴木亮平氏

介護に関わる関係人口を増やすことで2025年問題(高齢者人口の増加による介護労働力不足や財源不足の問題)に挑む株式会社プラスロボの代表取締役CEOの鈴木亮平氏に、起業の背景や今後の課題、事業の可能性についてインタビューをさせて頂きました。

鈴木氏のプロフィール

2015年に大学を卒業後、ITメディアに編集記者として就職。会社員として働く傍、会社の立ち上げ準備を行い、2017年に株式会社プラスロボを設立して独立。

2019年2月に介護福祉領域に特化したスキルシェアサービス「Sketter(スケッター)」のα版を、同年8月に完成版をリリースして現在に至る。

高校球児のように熱く働きたい!

Q.元々、独立したいという意向があったのですか?

大学生の頃からいつか自分で事業を創りたいと考えていました。
最初に記者という仕事を選んだのは社会勉強という意味合いもありました。

Q.起業を考えるようになった理由は?

人生に仕事が占める割合は大きく、かつ長くなると感じていました。自分で創った仕事であれば楽しく熱中してやれるんじゃないかと考えていました。

高校時代に強豪校の仙台育英で野球をやっていたことも影響しているかもしれません。
レギュラーにはなれなかったんですが(笑)、甲子園という大きな目標に向かって野球漬けの日々を送りながら、勝っても負けても、ものすごい泣けるほどで、生きている実感がありました。

社会に出てからも、そうした高校時代のような涙を流せるほどの体験ができるのかと考えると、普通に就職しても難しいと思いました。
自分でミッションを掲げて、仲間を集めて事業に取り組めば、高校球児的な生き方ができるんじゃないかと考えました。

Q.どういうタイミングで独立したのですか?

お金を貯めて、とかストーリーみたいなものもあったのですが、準備ができないまま時が過ぎて行ったので、このままでは一生起業できないなと思った瞬間がありまして(笑)、であればまだ何もないけどとにかく登記しよう、というところから始めました。

モノは溢れているのに、なぜ社会課題は放置されているんだろう?

Q.介護業界を選んだ理由を教えてください

大学生の頃から、事業を創るということは決めていましたが、どういう領域でやろうかと考えたときに、世のなかには既に色々なモノやサービスが溢れていて、何をやっても元々便利なものがもう少し便利になる、といったレベルのものしかできないなと思っていました。

その一方で、これは死活問題、といった社会課題に対しては起業家の参入がほとんどなく、国も対策を持ち合わせていない、介護の人手不足の問題に関してはほとんど”お手上げ状態”でした。

モノがこんなに溢れていて物質的には豊かな時代なのに、なぜか貧困に苦しむ人がいたり介護難民の人がいたりといったように、何故か社会課題が放置されたままであることを不思議に思いました。

であれば、「社会課題の解決」という領域で起業することで、一生かけて取り組む仕事としてちょうど良いと考えました。

例えば、「面白いゲームアプリを作る」という課題であれば、5、6年くらいで達成できたりできなかったり、飽きてしまったりすると思いますが、社会課題の解決となると、自分の人生だけでは完遂できないくらいの重さがあるので、「仕事に打ち込める人生にしたい」という自分の価値観にあっていたのだと思います。

より多くの人がゆるく支え合える福祉インフラを創りたい!

スケッターのサイト画像
スケッターのサイト画像

Q.スケッターについて教えてください

すきま時間を活用して働きたい、スキルをシェアしたい、という人と人手を必要としている介護施設をマッチングするサービス です。

介護施設では、入居者のお話相手や食事の準備、お掃除、IT業務などの「介護」以外の仕事もたくさんあります。
誰もが「自分ができること」で介護施設のお手伝いをすることができるいう仕組みになっています。

より多くの人がゆるく支え合える福祉インフラを創ること、介護に関わるキッカケが生まれることで、関心を持って転職をする人が増えるといったことを目指しています。

Q.登録施設や登録者の数は?

介護施設は200施設で、新型コロナウィルスの感染拡大によって一時的に増加が鈍化しましたが、緊急事態宣言が終わった頃から再び増えています。

登録者は1800人に迫っています。広告を打っていないので爆発的には増えていませんが、口コミで安定して毎月100人づつくらいは増えています。

登録者が増えれば施設側も増えていくという感触を持ってはいます。なんと言っても働き手不足が課題ですから。

Q.介護施設で働くというのは一般の人にとってはハードルが高いと感じますが。

私自身も最初はそう思ってましたが、介護業界の人たちに色々と聞いていく中で、必ずしもそうではないのだと分かっていきました。

「介護業界に対して当事者として自分ができることは何もない」と考えている人がもの凄く多いのではないかと思いますので、「誰でも参加できるんだよ」ということをどうやって伝えていくかが課題でもあります。

Q.他のスキルシェアサービスからヒント得ることはありましたか?

はい。家事代行サービスをはじめとした他のスキルシェア系のサービスを見ると、料理や掃除などの日常の生活の困りごとに関するマッチングが多いと感じました。

実は介護施設はまさに生活そのものなので、そうしたスキマ時間で働いている人たちが介護業界でも働ける仕組みを作ったら、人手不足の解決に寄与できると感じました。

昭和の助け合い文化を令和の時代にアップデートできるかもしれない

Q.事業を進めていて、どのような手応えや可能性を感じていますか?

スケッターが面白いのは、「時給いくら」「稼げる稼げない」ではなく、「体験したい」「自分でできることで役に立ちたい」「福祉について学びたい」「社会課題に関心がある」といったユーザーが集まっているということだと思います。

「誰かの助っ人になる」というユーザーが増えることで、昭和の頃、近所同士で醤油を貸し借りしていたような「互助の仕組み」が令和の時代にアップデートされた形で戻ってきて、福祉の社会インフラを支える新しい仕組みの一つになるのではないかと感じています。

介護の問題は税金や社会保障費だけでは解決は難しく、みなさんが持っているちょっとしたリソースをシェアし合うことでしか成り立たないのではないかと考えています。

スケッターは多くの人達からビジネスとして成り立たないと言われてきましたが、20代の若い世代を中心とした社会課題への関心が高いユーザーが実際にたくさんいるということに可能性を感じています。

また、介護施設でのお手伝いといった領域を飛び越えて、地域全体の福祉に広がっていくのではないかという可能性も感じています。

現在、マンションで使われることが決まっていて準備を進めています。

大袈裟なことをしようというのではなく、コミュニケーションの促進を図るために利用して頂くというものです。

死んでしまったことにすら誰にも気づかれないような孤独死が起きてしまう時代においては、「どうやって社会との接点を持てるようにするか」ということが大切です。

そうやって地域に根ざした形で「助っ人」が入っていく。大きな社会実験になると思います。

スケッター交流会
スケッター交流会の様子

Q.どんな課題を感じていますか?

ベンチャーなんで課題を挙げればきりがないのですが(笑)

目先の話をすればスケッターや介護施設を増やすといったことなのだと思いますが、本質的な課題としては、最終的には全ての人に福祉に参加してもらいたいので、全く関心がない人にどうやって関心を持ってもらうかということです。

専門的な仕事はやらなくてもいい、ということでスケッターの入り口を広げたことは上手くいったと思いますが、それだけでは、もともと関心がある人が参加できるようにしただけなので…

この課題に関しては、まだ全く解決策が見出せてはいません。福祉に関わる目的とかイメージといったものが180度変わるような仕掛けが必要だと感じています。

Q.社会課題に取り組むお仕事をしていて思うことはありますか?

NPOとか社会課題は儲からないというイメージがあると思いますし、実際大変なんですけど…。

ただ、そうすると起業家も増えないので、我々が株式会社としてちゃんと利益をあげることで、若い人が「社会課題ど真ん中でビジネスをやってもちゃんと経営できるんだ!」と思ってもらえるようなロールモデルになりたいという想いはあります。

スケッターは「他人のため」よりも「自分のため」になる側面も大きい

Q.最後に読者にお伝えしたいことはありますか?

スケッターというサービスは、介護事業所の人が助かるということはあるのですが、実は、登録者(助っ人をする人)自身が一番の受益者になるというケースが多いです。

介護施設に行ったことがないという人にとっては新鮮な体験になったり、価値観が変わる体験になったりすると思います。

IT企業などでバリバリ働いている人が、本業で感謝されることが少なくて、介護施設で「ありがとう」と言われて自己肯定感を取り戻すといった例などもあります。

「他人のため」といった側面だけでなく、自分自身の生活を良くしたり、本業に良い影響を与えるといったように、「自分のため」という経済合理性にかなった側面もありますので、ぜひスケッターを活用してみて欲しいと思います。

編集後記

Zoomの画面越しに話す鈴木氏は、ガッチリとした体格と飄々とした語り口から、太々しさの感じされる雰囲気を醸し出していました。

「自分でミッションを掲げて、仲間を集めて事業に取り組めば、高校球児的な生き方ができるんじゃないかと考えました。」
「社会課題の解決という領域で起業することで、一生かけて取り組む仕事としてちょうど良いと考えました。」

というコメントからも感じ取れるように、大きな目標に向かって果敢に挑む“太い男”という印象を持ちました。

“社会人高校球児”が「2025年問題」という大きな社会課題に対してどこまでやってくれるのか楽しみです。

期待を込めてこれから応援したいと思います。

【取材日】 2020年10月27日

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