再雇用などで70歳まで働く人が増えた場合の人件費増加や、シニア人材のモチベーションの低さやパフォーマンスの悪さ、扱いずらさなど、シニア人材をどうしていくかが企業の大きな課題となっています。
そのような中、2016年に女性社員の過労死自殺で世間に大きな衝撃を与えた電通が、新しい働き方の形に取り組み始めたことが注目を集めています。
電通の40・50代社員の230名が個人事業主として業務委託契約へと切り替わる
電通は2020年11月に「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」という構想を発表しました。
それによって、2021年1月から、40・50代の中高年社員のうち社内公募で集まった約230名(全社員の3%程度)が、雇用契約から業務委託契約に切り替わるとのことです。
正確には、
- 該当する社員は電通を退職して個人事業主となる
- 電通100%出資のニューホライズンコレクティブ合同会社と10年間の業務委託契約を締結する
固定報酬+インセンティブ報酬で構成。平均で社員時代の年収の50~60%相当の報酬になる仕事を確保 - 段階的に固定報酬を減らしつつ、インセンティブ報酬を引き上げられていく
という仕組みとなっています。
過酷な職場環境で知られていた同社だけに、労働法上の問題回避や、社会保険料の免脱のためでは?といった懸念の声もありますが、日本全体の職場で起きているシニア雇用の問題に対する解決策として注目すべき試みではないでしょうか?
企業の約半数でシニア社員に課題感を持っている
人口減少と高齢化が同時に進む日本では、労働力人口維持のためにシニアの労働参加の促進は不可避です。そのため、2021年4月から、法改正によって企業の70歳までの就業機会確保の努力が義務化されます。
その一方で、パーソル総研が2020年9月に行った企業人事向けの調査結果によれば、「自社のシニア人材に課題感を持っている」と回答した割合が49.9%に達しており、半数の企業がシニア人材に対する課題感を持っていることが明らかになりました。「現在も未来も課題として感じていない」と回答した割合は11.4%に留まっており、将来まで含めて考えると、約9割がシニア人材が課題になると考えていることになります。
課題感の中身と見てみると、「シニア社員の働くモチベーションの低さ」44.9%が最も多く、「パフォーマンスの低さ」42.9%が続きます。やる気も成果もないというのは従業員に対する課題としては最悪の分類に入ります。
また、「シニア社員への現場のマネジメントの困難さ」41.4%と続いており、年上の部下の扱いにくさが見て取れる結果となっています。
高齢化で企業の人件費が膨張する
みずほ総合研究所の堀江奈保子主席研究員の試算によれば、再雇用などで70歳まで働く人が増えた場合、企業の人件費は2040年に65~69歳だけで2019年と比べて3割多い6.7兆円にまで膨らむということです。
戦略的な人材活用に切り替えなければ、企業の生産性は落ちて競争力が損なわれる原因になってしまいます。
こうした日本の職場で起きている社員の高齢化と人件費の増加、シニア社員のモチベーションとパフォーマンスの低さは日本社会の活力を大きく損なう要因となっていることを考えると、今回の電通のような取り組みは、新たな一手となる可能性があると言えるのではないでしょうか?
注目される「アルムナイ」という考え方
企業と個人の新たなつながりを模索した今回の構想の発案者であり、自身も個人事業主として独立した野沢友宏氏によれば、
社員が自立したプロとして価値を発揮し、その価値を電通と社会に還元することを目指した。オープンイノベーションへの期待も大きい
とのことです。
終身雇用制度が中心だった日本では、途中退職者は「裏切り者」として扱われることもざらでしたが、雇用の流動化が進んでいたアメリカでは、退職者が古巣の企業と対等な関係を結ぶことは盛んに行われてきました。
退職した元社員のことを、卒業生を意味する「アルムナイ」と呼び、フォーチュン500社の98%が何らかの制度を持っているという調査もあるようです。コンサル大手のマッキンゼーでは、世界中の約3万4000人のアルムナイがつながっています。
元々、米国ではIT業界での人手不足問題から元社員を再雇用する動きが加速したことから、こうした「アルムナイ・ネットワーク」が急成長したという背景がありました。
日本でも「〜マフィア」「OB/OG」「元〜社」というような、アルムナイのコンセプトに近い呼称があったりします。リクルートOBの人は「元リク」と呼ばれることも多いので、聞いたことがある人もいるかもしれません。
ドリームインキュベータでは退職コンサルタントの7割にあたる約170人がサイトを通じて業務受託するなど、アルムナイ活用に取り組んでいるケースがあるようです。
いづれにしても、「やる気と実力のある独立社員とつながる」ことが狙いであり、「モチベーションとパフォーマンスが低い社員の切り離し」とは全く正反対の取り組みとなります。
企業側も働く個人も、組織内でくすぶっているうちに”問題シニア“化する前に、先手を打ってWin=Winの関係を作っていくことが肝心になります。
終わりに
自分より年下の上司に使い難いと思われながら組織に残り続けなければならないシニア社員は辛いですね…。自分にも、企業にも、社会にとっても全く良いことがありません。
みずほフィナンシャルグループの週休3~4日制導入や、今回の電通のような取り組みがこれからどんどん出てくると思います。本来はこうした制度を活用して、自ら組織からの卒業を目指すというのが理想でしょう。
それでも生活のために会社に残らざるをえないという結論に至るようでしたら、残念ながら実力不足ということになるでしょう。その現実を受け止めて組織内でのパフォーマンスを必死で追求しつつ、人生100年時代を生き抜くための活路を探りましょう。
以下の記事を読んで、サラリーマンとして働く人が、リスクを抑えながら独立を目指すための考え方と方法を参考にして頂ければ幸いです。