パラレルキャリアとはどんなものでしょうか?
未来学者ピーター・ドラッカーが、著書『明日を支配するもの』で提唱した、未来の生き方・働き方に対するコンセプトの1つです。
時代変化のスピードが速くなり会社組織が短命化したことで、人は組織だけに頼らずに第2の人生を始める必要が生じたという主旨で、その第2の人生のことを「パラレルキャリア」と表現しています。
近年は日本でも働き方改革が叫ばれている中で、「パラレルキャリア」や、それと同列で「複業」という言葉が用いられて注目されています。
パラレルキャリアと副業との違い
パラレルキャリアと副業とは何が違うのかというと、副業はお金をもらうことを目的としたものですが、ドラッガーが提唱したパラレルキャリアの定義では、お金を目的としていないということがあります。
自分自身のスキルを上げたいという人、夢を実現したいという人、社会活動をしたいという人で報酬を目的としていない場合のことをパラレルキャリアといいます。
しかし、今の日本で用いられている「パラレルワーク」や「複業」といった言葉は、ドラッガーが提唱したよりも広い意味で用いられているようです。(「プロボノ」がドラッガーのいうパラレルワークのコンセプトに近いかもしれません)
企業目線では、社員が軸足を本業におきながら社外活動で視野や人脈を広げることで、組織に多様性をもたらすことを期待するという場合が多いようです。
一方、個人目線では「半所属」で主軸(安定的な収入)を持ちながら、第2の働き方を同時並行(パラレル)で進めていくことで、1つの仕事だけでは得られない成長機会を得ることを目指したり、将来の独立までを視野に入れたりといったように、”副業以上・独立未満”といった範囲をカバーしているようです。また、仕事として報酬(お金)を得るケースの方が多いように思います。
パラレルキャリアの進め方
パラレルキャリアを始める場合は、今まで行っていた趣味を広げて行う人、NPO法人などに登録して始める人、ボランティアサイトなどに登録して行う人や起業の準備を行うために行う人など様々なやり方があり、自分にあった方法で行うと良いでしょう。
趣味から始めた活動がだんだんと対価を得られるようになってくる場合もありますが、続かなければ意味がないので自分の興味のあることを行うようにしましょう。
パラレルキャリアには特に資格や技術などは必要ありません。どんどん実践していくことで技術を磨いていけばよいので、まずは行ってみることが大切です。
パラレルキャリを始めるためのきっかけとなる団体としては以下ようなものがあります。
パラレルキャリアのメリットと注意点
パラレルキャリアを行っている人は、多くの人が本業も頑張れるようになった、成果にこだわり時間をより大切にするようになった、リスク分散を行えるようになった、と本業にも良い影響を与えていると感じています。
ただし、パラレルキャリアを行う場合は健康にも気を付けなければなりません。自分1人で2つのことを行わなければならないため、健康を害してしまっては本業にもパラレルキャリアにも影響を与えてしまい、立ち行かなくなってしまいます。
そういったことを避けるためにも、自分で自分をコントロールする力が必要となってきます。自分で自分をコントロール出来るようになれば、今後生きていくのも楽になるというメリットもあるのではないでしょうか。
パラレルキャリアは、上述したように必ず自分が好きなことで情熱を注げるものをやることが大切です。パラレルキャリアで認められたり成果を出すためにはそれなりの年月をかけなければなりません。そのため、好きなもので無ければ道半ばで諦めることになってしまうのです。
また、本業に支障をきたすようなことがあってはいけません。そうなると、本業も行わずに趣味ばかり優先しているという悪評がたってしまったり、応援してくれる人がいなくなってしまいます。本業もしっかりと行って、パラレルキャリアにも力を注ぐことでだんだんと応援してくれる人が増えていくことでしょう。
2つの会社の社員+農家という3足の草鞋(わらじ)を履く注目の複業スタイル
先進的なパラレルワーク(複業)の事例として、「複業家」として注目されている中村龍太氏についてお伝えしたいと思います。
中村龍太氏の経歴を簡単に紹介すると、日本電気(現NEC)とマイクロソフトにおける会社員としての30年間弱のキャリアを経たのち、50歳を目前にして株式会社ダンクソフトとサイボウズ株式会社に同時転職し、複業家としてのキャリアを開始。現在はサイボウズとNKアグリの社員に加えて農家という3足の草鞋を履いています。
中村氏は自らのワークスタイルを、”主業についた上で業務時間外に他の仕事をやるという「副業」”でなく、”1つの仕事をすることで2つの会社にとっての成果になるように働く「複業」”と表現しています。
中村氏の講演の中で「企業と個人から見た副業の長所短所」を整理して説明して頂いたので、そのまま紹介します。
- 採用力の強化(短時間でも、どんな場所でも手伝ってもらえる)
- イノベーションの創造(社外の知識を取り込む)
- 生産性の向上(リフレッシュ効果)
- マネジメント力の向上(働き方の多様化を促進できる)
- 個人の自立を促進(ぶら下がり社員を減らす)
- 高給人材の登用(フルタイム分の給与が不要)
企業から見た副業のデメリット
- 効果が未知数で不安
時間を減らしても現業の成果が変わらないか?情報漏洩や企業ブランドの毀損が起きないか? - 評価の難しさ
シナジーがある副業をどちらで評価するか? - 本業との競合
本業の仕事を副業で受けさせてよいか? - 社会保険の負担
週20時間未満働く会社は負担しないため、負担が減る
- 収入を増やす
- スキルを高める
- 人脈を広げる
- 将来のキャリアプランを豊かにする
- リフレッシュできる
- モチベーションを維持向上できる
- 幸福感が高まる(貢献できる喜び)
- 自分の人生で本当にやりたいことを模索できる
個人から見た副業のデメリット
- 頑張りすぎる
時間管理に失敗して働き過ぎるなど、健康上の問題が起きるリスクがある - 虻蜂とらず
どちらの業務からも信頼を失うリスクがある
個人からみた複業のコツと事例
別の機会のセミナーでサイボウズ人事部の方の講演資料で、中村氏の講演内容では含まれていなかった内容があったので合わせて紹介します。
- 一石二鳥
一つの成果が2つ以上の会社の成果となること - 公明正大
複業のスケジュールや内容を共有すること - 複業分野
できること&やりたいこと&企業が求めることを満たすこと - ITツール
スムーズに切り替えられること
- 技術誌に寄稿
- 技術書を執筆
- 小説を執筆
- カレー屋
- YouTuber
- LINEスタンプを販売
- 不動産の賃貸
- カメラマン
- 福祉事業会社の顧問
- NPOでの勤務
- SI企業での勤務
- 就活支援事業を起業
- 経営コンサル
- テニスコーチ
- ノウハウ伝授セミナーの開催
- 講演内容
まとめ
政府の働き方改革の論点にもなっている「同一労働同一賃金」の考え方が進むことで、企業と従業員との関係を”共同体とそのメンバーの関係”のようにとらえる就社型・人基準の日本型雇用から、職務や職種を限定して雇用契約を結ぶ就職型・仕事基準の欧米型雇用へと移行していくことになります。
そうなると、会社や雇用の境界線はより曖昧なものとなり、1つの会社の中で、いろいろな形態で働く人が増え、個々人の価値がシビアに評価される世の中になっていくでしょう。
自分のキャリアをどうマネージメントしていくかが一層重要になることは間違いありませんが、そのための手段としての「パラレルキャリア」という働き方は、今後一層注目を集めていくことでしょう。